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コロナ後遺症外来も専門で行う広畑センチュリー病院の院長が解説
2019年に出現した新型コロナウイルスSARS-COV2による感染症COVID-19は,この記事を執筆している2024年6月現在で感染症法上の扱いがインフルエンザと同じ「5類」になっています。テレビや新聞などで大きく扱われることも少なくなり,一部では「終わった感染症」と思われているかもしれません。
広畑センチュリー病院では現在も『発熱外来』で新型コロナの診断や治療にあたり、『コロナ後遺症外来』で後遺症に関する診療にもあたっています。今回は特にコロナ後遺症についてお話します.尚,新型コロナウイルスSARS-COV2が感染した場合の病名を“COVID-19(コヴィッド-ナインティーン)“と呼ぶのですが、本記事では一般的にわかりやすい『新型コロナ』を病名として使わせていただきます。
新型コロナはかぜになった?
現在の新型コロナ診療において、一般の方や医療従事者の中にも「コロナはもう『かぜ』と一緒」とお考えの方がおられるようです。
『かぜ』をどのように定義するかによりますが、通常は無治療あるいは市販薬を含め対症療法で治る鼻からのどまでの「上気道」のウイルス感染症との認識が一般的でしょうか。
インフルエンザは『かぜ』程度ですむ場合も多いですが、抵抗力が落ちてこじれると細菌感染を合併して肺炎を起こすこがあります。では新型コロナとインフルエンザの違いは何かといえば、新型コロナはウイルスが直接肺炎を起こす場合があることと、『後遺症』が一定の割合で発生することの2点と考えます。また最近のオミクロン株以降では、特に高齢者が新型コロナは「かぜ」程度で経過したものの、その後に体力が回復せずに誤嚥性肺炎合併しやすいことが問題視されています。以上から現在のコロナは『かぜ』程度で終わる方が多いものの、ずるずると体力が低下していく方や後遺症が起こる方もおられ、『かぜ』ではない感染症と感じています。
コロナ後遺症外来とは
さて世界保健機構(WHO)はいわゆるコロナ後遺症について以下の様に説明しています。
- 新型コロナにかかってから少なくとも2カ月以上持続している。
- 他の疾患による症状として説明がつかない。
- 通常は新型コロナの発症から3カ月経った時点にもみられる。
- 新型コロナから回復した後に新たに出現する症状と急性期から持続する症状がある。
- 症状の程度は変動し、症状消失後に再度出現することもある。
- 小児には別の定義が当てはまると考えられる。
コロナ後遺症の症状とは?
新型コロナと診断されてから3か月の時点で見られる後遺症の症状は、多い順に倦怠感、呼吸困難感、筋力低下、集中力低下、脱毛、睡眠障害、嗅覚障害、咳嗽(せき)、頭痛、味覚障害、記憶障害、関節痛・筋肉痛、喀痰(たん)、手足のしびれ、眼科症状、皮疹、耳鳴り、咽頭痛、発熱、下痢、感覚過敏、腹痛、意識障害など様々で、複数の症状で困られている方もおられます。
(参照 新型コロナウイルス感染症COVID-19診療の手引き 別冊罹患後症状のマネジメント第3.0版)
実際に当院のコロナ後遺症外来で診察をしていても、咳やたん、呼吸困難など気管支や肺に関係した症状以上に、倦怠感、集中力低下、頭痛などで困られて受診される方が多い印象です。この原因は現在までの研究の結果、インフルエンザでは気管支から肺までの感染にとどまるのに対して、新型コロナのウイルスは肺以外の臓器、脳や神経にも感染し、さらに長時間持続感染するためではと考えられています。
どれくらいの人にコロナ後遺症が起こる?
新型コロナ感染症が始まってから、「デルタ株」「オミクロン株」などウイルスが変異していることをご存じの方も多いと思います。コロナ後遺症の発生割合は、感染時期(流行時期)で異なりアルファ・デルタ株の流行期は約25%程度であったものが、最近のオミクロン株の流行期では約12-17%と減ってはきています。それでもお仕事をされている働き盛りの方も含めて感染した1割以上の方が後遺症で困られているのが実情です。
コロナ後遺症かなと思ったら
コロナに感染して咳が止まらない、倦怠感や頭痛、味覚障害が治らないと思ったらコロナ後遺症外来を受診してください。学問上のコロナ後遺症の「定義」は2‐3か月以上症状が続く場合ではありますが、新型コロナに感染後の体調に気になることがあれば,早めにご相談いただくことをお勧めします。
コロナ後遺症外来ではどんなことをする?
遺症に対する検査や治療法は一人ひとり違います。まず患者さんの困られている症状が、血液検査で異常を示していないか,他の病気から来ているものではないかなどを調べていきます。そのためにたくさんの項目の血液検査や、肺のCTや脳のMRIなどの画像検査を順次行っていきます。
(参考 新型コロナウイルス感染症COVID-19診療の手引き 別冊罹患後症状のマネジメント第3.0版)
実際にはコロナ後遺症の原因と実態についてはわかっていないことも多く、たくさんの検査で異常が無いことも多いのですが、実は症状があるのに『検査で何もない』ことがコロナ後遺症であるという診断にもなります。
コロナ後遺症と診断されたら
検査の結果、コロナ後遺症と診断されれば、症状に応じた治療を考えていきます。現在では新型コロナに関する治療薬の抗ウイルス薬がありますが、いずれも感染早期にしか使えません。従ってコロナ後遺症が疑われても、抗ウイルス薬で治療をすることはありません。現在のところコロナ後遺症を確実に治す特効薬はありませんが、症状を和らげるのに役立つお薬の報告などをもとに、その方にあった治療法を探していくお手伝いをしていきます。
コロナ後遺症外来の今
コロナ後遺症に対する確率した治療法は確立していません。まさに私たちは現在進行形で手探りで治療を行っている状況です。後遺症と診断された患者さんには改めて知っておいていただきたいことは以下の通りです。
- 後遺症の経過は患者さんによって異なること。
- 確立した標準的な治療法はまだなく、症状を和らげることを目指した対症療法が中心であること。
- 数カ月から半年で徐々に改善することが多いですが、改善までもっと時間がかかったり、中には途中で症状が悪化することがあります。
- 定期的に通院してもらい継続的に、継続的に評価することが重要です。
- 症状が強い場合には安静・休息が重要で、無理なリハビリは行わずに段階的に日常生活に戻していくことが大切です。
コロナ後遺症に対して病院でできることが限られている中では、苦しまれている患者さんの周囲の理解とサポートは欠かせないものです。患者さんのご希望があれば、家族や近しい友人の方などと一緒に受診いただき、説明を聞いていただくことで、患者さんの心の助けになると感じています。
執筆
広畑センチュリー病院 院長
コロナ後遺症外来担当医 水谷 尚雄
参考資料:新型コロナウイルス感染症COVID-19診療の手引き 別冊罹患後症状のマネジメント第3.0版