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姫路 広畑センチュリー病院が肺マック症外来をはじめます

増える肺マック症の患者数

最近の呼吸器疾患で患者さんが増えている病気の一つが肺非結核性抗酸菌症という感染症です。これは『抗酸菌』という細菌のグループの中で「結核菌」と「らい菌」を除いた菌の総称です。

今でも「結核」という響きはよい印象を持たれておらず、この疾患名を告げると顔色を変えられる方がおられます。まぎらわしいのですが、「非結核性」なので「結核」ではありません。非結核性抗酸菌症は英語の略称でNTM(エヌティーエム)と呼ばれており、この記事では肺NTM症と表記いたします。今回は肺NTM症のひとつである肺マック症についてのお話です。

肺NTM症のほとんどが肺マック症

NTMには150種類以上の菌がありますが、人の肺に感染する菌の約80-90%がMycobacterium avium complexという菌で略称MAC(マック)です。つまり実際の「肺NTM症」のほとんどは「肺マック症」ということになります。

肺マック症と肺結核の違い

肺マック症と肺結核の違いとして以下の二つが挙げられます。

  1. 肺マック症は人から人へは感染しない
  2. 肺マック症は土や水など、自然環境や生活環境にいる菌が人に感染する

実は結核菌はヒトの体の中でしか増えることができず、自然環境には存在しません。なので「肺結核」は必ず人から感染した病気です。一方で肺マック症は人からうつる病気ではなく、多くの人が自然にマック菌に触れているのですが、一部の人の肺にだけ定着します。ただ似たような環境や生活スタイルで感染しやすくなる可能性はあり、感染したわけではないのですがご家族で感染することもあります。

肺マック症はどれくらい増えている?

上のグラフでは肺結核の患者が近年減り続けているのに対して、肺NTM症が急激に増えていることを示したグラフです。2014年の全国の呼吸器科へのアンケート調査結果で肺NTM症の罹患率(りかんりつ:1年間で人口10万人のうち新たにその疾患にかかった人)は約15人で既に肺結核を上回ったことがわかりました。グラフからさらに10年が経過しており、実際にはもっと患者数が増加していると考えられています。

さらに新しく開発されたレセプトを用いた疫学調査という方法では、有病率(現在肺マック症にかかっている人の割合)は10万人中約116人という数字が報告され、気管支喘息と同じくらい人数であることから珍しい病気とは言えないレベルです。

肺マック症の「診断」も増えている

実際に患者数が増えているのですが、肺マック症は初期ではほとんど症状はなく、以前より「早期に見つかる人」が増えている印象もあります。その理由として…

  1. CT検査の普及:人間ドックなどで肺のCT検査を受ける機会増えた
  2. 新しい検査法の普及:以前は痰(たん)からマック菌が培養されるのを待つしかなかったものが、新型コロナで有名になった「PCR法」や、血液検査で「抗マック抗体」を調べるなど、診断方法の進歩も要因
  3. 医師の意識:「肺マック症が増えている」という認識が医師にも浸透して、積極的に診断をつける機会も増えた

などが考えられます。

肺マック症といわれたら

肺マック症は初期には症状はありません。また症状が出るまでに10年以上かかることも珍しくないほどゆっくりなので、免疫力が低下するような持病がなければ急に悪化することは稀です。人に感染しないので、診断がついても症状が無ければ、治療をせずに経過を観ることもあります。

すぐに治療をしなくてもよいのですか?

なぜ肺マック症は早期発見早期治療しないのでしょうか。肺マック症は感染症なのでマック菌に効く抗菌剤を使えばよいのですが、残念ながら現在は確実に完全にマック菌を肺から消せる抗菌剤がありません。ある程度効果がある抗菌剤はいくつかあるのですが、1種類だけで使うとその薬が効きにくくなる耐性化を起こすので、3種類以上の抗菌剤を同時に使う方法が標準治療とされています。結核に使う薬も含まれていて、半年以上の長期に渡って複数の抗菌剤を使うので目や腎臓への副作用に注意しながら使う必要があります。

どういう時に治療を始めますか?

肺マック症の抗菌剤治療を始めるタイミングは以下のような時です。

  1. 症状が出た時:せき、痰、血痰などの症状で病院を受診され、肺マック症が原因と診断された時
  2. 菌の量が多い時:痰の培養検査を行ったときに、出された痰を顕微鏡で見た時にたくさんの菌が見える時(塗抹検査が陽性といいます)
  3. CT検査での特徴が見られる時:肺マック症の陰に「空洞」あったり、経過観察して、明らかに病気がひろがった時

治療は進歩しています

従来は飲み薬しか治療法がありませんでしたが、2021年に標準的治療を行っても菌の減りが十分でないなどの条件を満たせば抗菌剤の「吸入療法」が保険適用になりました。飲み薬と比べて他の臓器への副作用が少なく、抗菌作用も期待できます。ただ治療費が高額であることや、自宅での吸入療法の器具の管理や手間などが課題です。副作用もない訳ではありませんが、長らく進歩のなかった肺マック症治療が一歩進んだことは間違いありません。

肺マック症外来をはじめました!

肺マック症に「特効薬」が無いことは、診断された患者さんにとってはつらいことです。肺マック症といわれたらどうしたらいいかお困りの患者さんや、また呼吸器疾患が専門ではない医師の中にはこの病気とどのように向き合えばよいかお困りの先生もおられるようです。

広畑センチュリー病院では肺マック症と診断された方や、ご自身が肺マック症ではないかと心配な方などに「肺マック症外来」を始めています。

肺マック症は実際には症状が無く10年以上無治療で生活に影響がない方もたくさんおられます。抗菌剤を使わなくてもご自身の免疫力で菌の量が減る方がいることもわかってきました。また去痰剤で症状がやわらいだり、漢方薬で体調の改善維持に努めることも行っています。

何よりも吸入療法の開始や、海外も含めて有効な薬剤の研究が進んでいるとの報告もあります。情報があふれている世の中ですが、必要以上におそれることなく「肺マック症外来」を通してご一緒にこの病気に向き合ってまいりましょう。

広畑センチュリー病院「肺マック症外来」
※第2土曜日13-15時:初診の方限定の診察枠になります。他院からのご紹介の方は地域連携室を通して他の診察日への予約も可能です。気になる症状がある方はお気軽にお問い合わせください。

▼執筆者
広畑センチュリー病院 院長
肺マック症外来担当医 水谷 尚雄

参考資料
日本呼吸器学会 呼吸器の病気 肺非結核性抗酸菌症
国立感染症研究所 非結核性抗酸菌
近畿中央呼吸器センター診療部非結核性抗酸菌症
成人肺非結核性抗酸菌症化学療法に関する見解 ― 2023年改訂 ―
インスメッド 肺NTM講座
NTM症(非結核性抗酸菌症)に関する情報サイト NTMnavi 医療従事者向け

              >>肺マック症外来については詳しくはこちら